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広島高等裁判所 昭和32年(ラ)32号 決定

抗告人 債権者 国民金融公庫

訴訟代理人 山内茂

相手方 債務者 小島智江子 外四名

主文

原決定を取消す。

本件を山口地方裁判所下関支部に差戻す。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載の通りである。

本件競売申立書添付の書類によれば、抗告人は昭和二十七年六月二十六日小島司に対し、金十万円を利息年一割二分、弁済方法昭和二十七年七月より昭和二十九年六月まで毎月二十五日までに右元金を分割し利息と共に支払うこと若し右分割弁済を一回でも怠つたときは期限の利益を失い残額一時に支払うことと定めて貸与し、相手方小島智江子及び国井キクノが右債務につき連帯保証をしたこと、小島司は右借受元金の内金一万円を支払つたのみでその余の支払をしないまま昭和二十九年一月六日死亡し、相手方小島チサは同人の妻として、相手方小島劭、小鳥智江子、小島雄は同人の子として同人の遺産相続をなし前示債務を承継したので、抗告人は右相手方等に対し右貸金請求の訴を提起し、その勝訴判決が確定して抗告人は右相手方等に対し本件各債務名義を得るに至つたこと、抗告人は昭和二十九年二月九日付の仮差押命令に基き本件宅地及び建物につき同月十一日仮差押の登記を経たこと、一方相手方小島智江子所有の本件宅地及び小島司所有の本件建物については、それぞれ右両名と大津徳一との間に昭和二十八年九月二十五日売買予約、同年十二月二十五日右予約の完結としての売買がなされ、大津徳一のため同年十月八日売買予約の仮登記及び昭和二十九年五月二十一日売買による所有権移転登記がなされたこと、抗告人は大津徳一を被告として同人と相手方小島智江子及び小島司との間の本件各不動産についての前記売買予約及び売買の完結の取消並びに前示売買予約の仮登記及び売買による所有権移転登記の各抹消登記手続請求の訴を提起し、その確定勝訴判決に基き昭和三十二年七月十九日右各登記が抹消せられたこと、相手方牧野元三は昭和三十年六月三十日付売買契約により本件各不動産を大津徳一より譲受け、同年七月一日その所有権移転登記を経由したが、右売買契約及び登記の日は抗告人のなした前記仮差押の登記の日より以後であることを認めることができる。

ところで、詐害行為取消の効果は相対的であるから、大津徳一の前示売買予約及びその完結による売買が詐害行為として取消されても、転得者たる相手方牧野元三は善意である限り右取消により本件各不動産の所有者たる地位を失うものではない。しかし、本件においては、相手方牧野元三の所有権取得登記の日より以前に抗告人のため本件各不動産につき前示仮差押の登記がなされているのであるから、相手方牧野元三がその所有権取得を以て仮差押債権者たる抗告人に対抗し得るためには、仮差押債務者より本件各不動産を譲受けた上相手方牧野元三にこれを譲渡した大津徳一の権利が右仮差押に優先することを主張し得なければならない。しかるに、大津徳一と仮差押債務者との間の前記売買予約及び売買が前示の通り確定判決により詐害行為として取消された以上、その詐害行為取消判決の反射的効力として相手方牧野元三は抗告人に対し大津徳一の本件各不動産について権利が右仮差押に優先することを主張し得なくなつたものといわねばならぬ。しからば、右仮差押の登記後本件各不動産の所有権を取得した相手方牧野元三は、その所有権取得の効果を仮差押債権者たる抗告人に対抗し得ないことは明白である。従つて、右仮差押の効力として抗告人に対する関係では、本件宅地は仮差押債務者たる相手方小島智江子の所有に、また本件家屋は仮差押債務者小島司の共同相続人たる相手方小島チサ、小島智江子、小島劭、小島雄の共有に、それぞれ属するものといわねばならぬから、右相手方等に対する本件各債務名義に基き登記簿上相手方牧野元三の所有名義となつている本件各不動産に対し強制競売の申立に及んだ抗告人の本件強制競売申立は適法であつて、これを許すべきものであることは明白である。右と異なる見解の下に本件申立を却下した原決定は失当であつてこれを取消すべきものである。なお、本件を原裁判所に差戻すのを相当と認め、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

抗告の理由

一、抗告人の申立事由は原決定摘示の通りであるから援用する。

二、右事実摘示の通り大津徳一の売買予約仮登記及び所有権移転の本登記が詐害行為取消により抹消せられた以上現所有者牧野元三が所有権移転登記を得たる日時と抗告人の得たる仮差押登記の日時の前後に基きその優劣を定むべきものであつて牧野元三が前記仮登記の時に遡て所有権取得の効力を取得するものではない。

尚大津徳一の前記仮登記並びに本登記が取消されない場合に於ては本件仮差押は効力を失うべきも右登記が抹消せられたる以上仮差押登記後の所有権取得者たる牧野元三に対しては勿論右仮差押の效力は失はれるものではない。

原決定は上述の如き自明の解釈を誤りたるもので取消さるべきものである。

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